ある友人とのある話

付き合っていた彼女に別れを切り出されて間もない男友達が嘆いていたことをふと思い出した。付き合って間もない頃デートにはよく行っていたし、よくセックスもしていて、互いに心身ともに満たされていたようだった。ぼくは微笑ましい気持ちでその話に耳を傾け幸せをおすそわけしてもらっている気持ちにもなった。
以前に彼は彼女に、他の女の子と関係をもったら別れるからねと釘を刺されており絶大なる信頼をおいてただろうと思う。そう言う彼女もそんなことはしてくれないだろう、と。それも微笑ましい限りだ。しかし、そんな最中なにかを境に「ヤるために付き合ってるでしょ」と自棄気味に言われたそうだ。二人の関係だからその辺はよくわからないが、彼女に対して好意を、そして信頼をおいており、性欲旺盛な時期にそんなことを言われ、その上他の女の子と関係を持つことに牽制をくらっていた彼はひどく混乱したことだと思う。
そのとき僕は「色々あるね」と一言言った。

彼と同じ体験はしていないし、その女の子を実際見ていないので僕がいまから言うことは彼の話を基にした絵空事に過ぎないが、その女の子はおそらく世界が狭くそのわりにプライドが高いのだろうと思う。
世界が狭いからプライドが高くなっていると言った方が正確かもしれない。
そして、不思議なことにプライドが高い人、いうなれば自分を高く見積もっている人ほど自分に自信がない。ほんとはできないことでもできると自負してるもんだから、できないことをするときにできないという当たり前の事実に直面したときに自信喪失に陥るのは自明で且つ自然な流れだ。生まれてこのかた自分と真摯に向き合ってこず、できることとできないことの区分けができていない。そして、自信喪失に陥れば自己肯定感が低下し、セックスどころか好意を寄せられていることにも違和感を感じる。
彼から聞く話によれば、おそらくそれが原因ではないかと推測する。彼女自身の問題である、と。彼の気持ちを考えるとすこし虚しく、そして切なくなる。

そして僕がそれを伝えると、彼は、そうかもしれないと希望に満ちたような目をして、別れるまでのすこしの間彼女のために孤軍奮闘していたが生憎の結果だった。「信用なんて信用できない。なにも悪いことはしてないのに、ましてやよかれと思ってのことだったのに、勝手に信用が無くなっていくんだから。」と口から漏らしており、何があったのかはわからないが、その言葉は当時の彼の苦悩を表していた。

彼はどうすればよかったのだろうか。
何がいけなかったのだろうか。
それともそんなものなのだろうか。

しかし、付き合いはじめの頃はそんなことは一切言わずむしろ逆なぐらいだったのに、時間がたつにつれそんなことを口走ってしまう彼女もどうなのかと突っ込みたくなったのはなんとか胸の内に秘めたままだ。ホントに二人にしかわからないことなんだろうな。

彼は頭脳明晰で快活である。その上オチャメな部分も兼ね備えている。僕はそんな彼に惹かれている。だから、僕は「いつか君の魅力に気づく日が来るよ、僕が保証する」と励ますと彼はニコッと笑って見せた。「そうだと良いね」と。

彼もこれで少し強くなったんだろうなと思う。僕も負けてはいられない、そんな気にさせてくれる人が居ることに感謝しなくてはいけない。ありがとう。